690 ENDURO Rの魅力を語る。
決まった! に数多く出会えるビッグ・オフロード。
──モーターサイクル・ジャーナリスト 松井 勉さん。

「今度はデザートからハイスピードで走ってくるシーンを撮影しよう。向こうから来るとブッシュの所にギャップがある。そこでバハ1000レーサーみたいにフロントを上げてみてほしいんだ」

690 ENDUROのメディア試乗会が行われたスペイン南部、マラガ郊外の荒れ地と舗装路を縫うようにして走ったテストの撮影時の一コマだ。

690 ENDUROはノーマルタイヤのまま、荒れ地に余すことなく63馬力のパワーを伝える。安心して信頼できるパワーデリバリーに気持ちが昂ぶりながらも、心は静寂に包まれる。コレはすごい。例のギャップでフロントホイールは見事に離陸。スタンディングのまま自分でやっていて叫びたいほど決まった。ホントにバハで走っているようなスピード感。バイクに乗るっていうのは、こういう瞬間に出会うためだ、間違いなく。

この“決まったな!”に多く出会える。それが良いバイクの指標だ。

その後、この魅力的なニューモデルは690 ENDURO Rとして日本に導入されることになる。オレンジのスペースフレーム、ストロークを伸ばしハードにしたサスペンション、フロントフォークの谷間に埋まるようなヘッドライト、EXCシリーズに通じるコンパクトなメーター、その上、タイヤはオフ重視のハイグリップタイヤだ。乗り出すとさらに純度の高まった走りの歓びの世界が待っていた。

魂がこもっているな、これ。取材で走りながらいろんな思いが口をついて出る。林道を走っている間にどれだけ騒いだだろう。

オフロードを始めたとき、僕はすでにロードのビッグバイクを経験していた。オフは250から、と先輩に言われ従ったが、アクセルをちょっとやそっと開けたぐらいでは何も起こらない。手強かった。パワースライドやフロントリフトなんて一番やってみたいオフロード的な三次元アクションは何も決まらない。

「開いてないからだ!」──先輩はこともなげに言う。
だけど怖いし。それに250を全開で扱えれば誰も苦労はない。

ツライのが嫌いな僕はその禅問答のような250がイヤで仕方なかった。飛ばせば怖くて体が硬くなり疲れる。開けないと走りがフラつくから乗れていない自分に嫌気がさす。そんな世界から逃げよう。2台目はビッグタンクの600クラスに乗り換えた。そうしたら「えっ!?」というほどなんでも簡単だった。でも重たい。軽い600に乗り換えた。もう楽しくて仕方がない。250でのあの4年間──もったいないことをしたと思う。

ビッグバイク経験者でオフを上手くなりたい、と切望するなら軽い小さいエンジンのマシンより、大きなエンジンのほうが近道だと僕は思う。だって、林道まで遠出するのも250だとしんどいし(笑)

電子制御のダブルスロットルで扱いやすい690のエンジンならトレッキング的な走りもワイドオープンもお好みのまま使い分けられる。このエンジン、KTMはダカールラリーで作り込んでいったそうだ。毎日、見知らぬ路面をハイペースで走る。パワーだけでやっかいなエンジンなんてなんの役にも立たない。疲れない特性と走りをラクにしてくれるフレームとサスペンション。これだ。

そう、KTMの690 ENDURO Rはそんな乗り味が詰まっている。JNCCやJECに出るならもっと小さくて軽いバイクをオススメするが、ストリートリーガルとしてツーリング、林道、時々オフロードコースというならこのバイクはどこにも間違いがない。あの頃これがあったなら……。ハッピーをもっとラクに長く楽しめたはずだよ、先輩!

余談ですが、僕が250にまともに乗れるようになったのは雑誌の仕事を始めて、カメラマンの厳しいリクエストと対峙してしばらくたってからのこと。上手い人のオフは軽いマシンから──、真理としてそうでもない部分が混ざっていると経験上思います(笑)