New Model Impression 2011 990 SM T
袖ヶ浦フォレストレースウェイで走らせたKTMの魅力 第5回
KTMがやるとトラベリングバイクもやっぱりこうなる! By 松井 勉

990 SM Tのコンセプトとは、“スポーツツアラーのKTM流解釈の提案”だと思う。

では、スポーツツアラーというジャンルのバイクってどういうモノだろう? 大排気量でハイパワー、メーカーのフラッグシップ的色合いを追っているケースが多く、それだけに看板モデルが目白押し……となる。すなわち、大排気量、クラス最大のパワー、最高速は300km/h!にも届く、というサイボーグ的スペック等々……。
それだけに乗りづらいとか肩が凝る部分も同時に持っている、というのが相場だ。その点、990 SM Tの身軽さはどうだろう。

すでにKTMには990 ADVENTUREというトラベルバイクが存在する。ダカールラリーのワークスマシンをベースにしたというか、ラリーで市販車の耐久試験をしてその延長で勝ったというか──とにかく伝説が多いビハインドストーリーを持つ看板モデルで、舗装路からダートまで本当にスポーツできる仕上がりは唯一無二。
KTMなんだからそれで充分じゃないか──実は990 SM Tが登場した時、 990 SMをベースにフレームマウントのフェアリングを持つこのバイクは“どこか色が薄い”という第一印象を持っていた。もちろんそれは乗る前の話だ。

実際に990 SM Tに乗るとこれがいい。990シリーズに共通するスポーツ感たっぷりの走りの魅力も十分以上に持たせながらも、このSM Tは適度に穏やかさを持ち、ツーリングペースでしっとりくる。
そして何より軽い。装備状態で200キロを切る車重となれば、スーパースポーツエンジンを持つストリートファイター系でも軽量な部類に属するほど。フラッグシップ的スポーツツアラーはもっと重量があり、ハイパワーであるがためにアクセル操作にも細やかな神経が求められる。

990 SM Tは軽く、それでいて旅モードにすぐ入れるフレキシビリティーさも持ち合わせる。サスペンションやシートだけで、同じエンジンを持つ990 SM Rとはこれだけ性格が変わるのか、と驚く。
990 SM Tはゆったり走る気分になれるし、乗り心地も良い。吸収力がありソフトな印象のサスペンションが初対面の道をしっとりと掴んでくれる。しかも二人乗りしても妙なリア荷重によりすぎない基本設計の確かさもある。

乗り始めて30分で前言撤回。すっかり心奪われてしまったのだ。

この2011年モデルでは、990 SMTにABSが搭載され、マット系だった外装がグロスペイントになり見た目も一新した。かつて、990 SM Tが初めてラインアップに加わったとき、KTMの開発者に尋ねたことがある。
「どうしてABSを装備しなかったのか」と。
彼の答えは明快だった。
「実は990 SMをベースにして、KTMが求めるスタイリングを与え、新しいツアラーとしての性能を十分以上に与えていった結果、無駄を徹底的に省いて車体の隙間がなくなってしまい、ABSのシステムを搭載するスペースが無いんだ」
というこれまたKTM伝説になりそうなエピソードを吐露してくれた。

しかし、ボッシュのABSシステムやポンプの小型軽量化もあり、ついにスペースのない990 SM Tに搭載が可能になったのだ。そのシステム、これまでのABSと比較すると40%にも満たないサイズ。かなりコンパクト。
ABSを搭載した990 SM Tでもあちこち取材で走った。何よりもABSの魅力は“ブレーキロックで転倒する、怖い思いをする”という意識の片隅にある恐怖感を忘れさせてくれることだ。
雨の日でも、砂利道でも、パニックブレーキをかける瞬間でも、とにかく全力でブレーキを握る、踏むができる。バイクさえ直立している状態なら、制動力マックスの状態でタイヤがロックしないようにメカニカルにコントロールしてくれる優れモノだ。

もう15年以上前、びっくりしてあっさり握りゴケした経験を持つ自分としては、ABSほどありがたいものはない、と常々思っているだけに990 SMT+ABSは理想郷にすら思える。

ツーリングバイクはサーキットを
どうこなしたのか?

さて、今回の舞台はサーキット。延べ3000キロは走った経験のある990 SM Tだが、サーキットは初めて。今回のテスト車はパニアステーや、高いウインドプロテクション効果のあるロングスクリーンなど、純正オプションのPOWERPARTSが装着されている。
長閑なツーリング気分が消えなかった。でもこんなチャンスは滅多にない。そこでホームストレート手前の最終コーナーから全開でいく決意を固める。
その後与えられた時間が尽きるまで、僕は袖ヶ浦フォレストレースウェイを990 SM Tで攻め続けた。ツーリング中に見せる吸収性がよくソフトに感じる前後のサスペンションは、ハードなブレーキングや140km/hで旋回するコーナーでもスーパースポーツに比べて全く遜色がない。116馬力のエンジンはエキサイティングな加速を見せ、全開にする歓びを楽しませてくれる。

ブレーキの制動力とフロントサスペンションのバランスも絶妙。つまりサーキットの突っ込みも楽しめた。
写真をみて少し恥ずかしくなった。ツアラーにうち跨がり、ヘアピンを本気で攻めて、ガンガン膝擦っているのはどうかと思うが、乗り込めば乗り込むほどサーキットに自分と990 SM Tが馴染んでいく。
チェッカーフラッグが出て、走行時間が終わったのに、ピットに戻るクールダウンすらもどかしく、つい990 SM Tで攻めてしまったことを告白しておきます。

サーキットでのABSはどうだろう──。タッチも含め、ABS無しとの差異をほとんど感じない優秀なシステムだ。むしろ、ABSを主張するステッカーがボディーに無ければ気がつかないほどナチュラル。さすが最新世代のABS。小さいだけではない。
新たにインストゥルメンツパネルに追加されたスイッチひとつで、ABSはキャンセルもできるが、その必要性はまったく感じなかった。990 SM TのABSにキャンセルスイッチをつけた、ということはKTMのエンジニアはこのバイクでツーリング中にスーパーモトのトラックに行き、ハーフロックでテールスライドを誘発させないと気が済まないライダーがいる(おそらく990SMTを開発しているエンジニアたち本人だろう)とふんだに違いない。

余談だが、990SMT、フラットダートなんてへっちゃら。ビギニングがソフトな前後のWPサスペンションとそのストロークが効果的に路面を捕らえ、軽いテールスライドを誘発させても安心して走ることができた。もちろん、ダートでもABSは有効。僕はあえてABSをキャンセルせず活用した、で、大いに助かった。

個人的にこのバイクが好き、という感情を抜きにしても990 SM Tは楽しい。繰り返しになるが、200㎏以下の車重に116馬力という組み合わせの絶妙さ。そしてKTMならではのハンドリングと機動性がツーリングをどれだけ楽しいモノにしてくれるのか。

また、POWERPARTSにある旅のアメニティーが990 SM Tの世界をさらに広げてくれる。アルミのパニアを左右につけて、そこに荷物をつめても、しっかりとした車体がもたらす安心感は想像以上なのだから。
なにより見知らぬ道を駆け抜けるモーターサイクルの冒険心を、鼻歌まじりで楽しませてくれる、ある意味で天才。そんなバイクなのだった。