New Model Impression 2011 990 ADVENTURE
袖ヶ浦フォレストレースウェイで走らせたKTMの魅力 第3回
地球という惑星の道を味わい尽くす、
マルチテレーンツアラーの高い本質。By 松井 勉

990 ADVENTUREに一目置いている。性能、スタイル、装備はもちろん、その奥にある走りの本質がいつでも心を震わせるからだ。

1997年に登場した水冷単気筒のLC4エンジンを搭載する620 ADVENTUREから“冒険”ツアラーの系譜は始まる。そして2003年、水冷V型2気筒のLC8エンジンを搭載した950 ADVENTUREが990 ADVENTUREの直系のルーツモデルとなる。

オンでもオフでもKTMらしい走る楽しさを凝縮したスポーツツアラーというキャラクターは、世界のファンの心を鷲掴みにしている。なによりLC8という近代KTMのストリートモデル用の心臓=エンジンを真っ先に搭載して誕生したイメージリーダーでもあり、950ラリーというダカール優勝マシンを母体に生まれたモデル、というストーリーもマニア心を刺激し続ける。

そもそもダカールラリーは2週間という期間、キャンプ地からキャンプ地へと指定されたルートを読み解きながら走り、自然に溶け込み、時に挑みながら1万キロを移動する究極の旅だ。

ライダーの能力はもちろん、ハードであるバイクにも“旅力”が問われる。
ツライ時は励まし、なぐさめ、そして盛り上げてくれるような包容力。
もっと走りたい、と思わせる頼もしさ。
そして一緒に走ると楽しい、と感じさせてくれる友達力……。

だって、気持ち良くなければ楽しくないし、楽しくなければアクセルを開け続ける気持ちにさえなれないのだから。

KTMのどのモデルにも言えることだが──走るのが楽しいことこそがREADY TO RACEの原点だ、と僕は思う。
極論を言えば、ハイエンドなパーツをこれでもか! と使ってバイクを一台組み上げてもKTMはできあがらない。走る、曲がる、止まるという動きの中で乗り手がどう感じるのか、という五感を駆使した造り込みこそKTMの魅力なのだ。

つまり、日帰りツーリングでも一週間のロングツーリングでも感じるバイクとの一体感と同じ。僕達は機械に乗ってただ走っているのではなく、バイクという友達と時間を共有しているのだから、その部分をしっかり味わいたい。

実際、走るともっと哲学的な自分になれる!?

なんだか観念的だな、と思うかもしれない。でも990 ADVENTUREはついライダーを雄弁にするDNAを持っている。

まず忘れることが出来ないのが、エンジン。75度の挟み角を持つ水冷DOHC4バルブヘッドV型2気筒のLC8エンジンは、このクラスでは文句なしに軽い。これをクロームモリブデン鋼チューブで組まれたスペースフレームに搭載している。
フレームを中心に、左右から貼り付けるように装着した燃料タンク(容量19.5リッター)はスリムなライディングポジションを提供してくれる。
まるでラリーバイクのような造り込みの中に、ABSや快適なシート、ロック付きコンパートメントといった旅のアメニティーを備える。

そしてアクセル、ブレーキ、クラッチといったコントロール類の滑らかさ、バテットチューブを使った、剛性感あふれるハンドルバー、雨・冷風からはもちろん、転倒やダートロードで出くわすブッシュから守ってくれる本気のナックルガードといった、実践的な装備品をパッケージにしている点も嬉しい。

リア周りを見てみよう。例えば旅先でパンクの修理をすることになったとしても、アクスルシャフトを抜く際、それをしっかりホールドしてくれるパーツをスイングアームに備えているのだ。KTM伝統の隠しコマンド(見えますが)。ここもファンの心をしっかり掴むポイントだ。

2003年の登場以来、エンジン、シャーシ、サスペンション、各部装備に数多くのアップデイトを加えてきた。スタイルこそデビュー当時のものを踏襲するが、各部を時間の経過、市場の期待に合わせきっちりアップグレードしている。これも950ラリーというダカールウイナーのスタイルを継承したい、という想いからなのだろう。

ダカールウイナーの血を引くからといって、舗装路をおざなりにしてはいない。
かつて富士スピードウェイのショートコースで990 ADVENTUREを走らせたことがある。様々なメーカーのニューモデルの中でランキングをつける企画だったのだが、一歩もひけを取らないその舗装路での走りに驚いた。

フロント21インチ、リア18インチのピレリMT91は、いわゆるデュアルパーパスタイヤだ。しかし、そのとき走ったジャーナリスト達の多くが990 ADVENTUREに高評価を与えたことが鮮明な記憶として残っている。
つまり、舗装路でも相当に走りがいい。高速道路を延々と走るような場面でもクルーザーとして高い資質を持っている。乗り心地も抜群なのだ。

すでにその部分の評価が高いことを知ってか、今回のテストは「山深いウッズの間を抜ける小道でどうぞ」とKTMのスタッフは案内してくれた。もちろん、タイヤもサスペンションもストックのまま。つまり、「あえてダートのクローズドコースで990 ADVENTUREを体感すれば、その印象が深まりますよ」という趣向だ。
それはまさに思惑通りだった。ダカールウイナーの血筋は疑いようがない。意のままに楽しめる。パッケージとして軽い車体が、オフロードでも動きを重くしない。

しっかりとしたWPサスペンションがダートでも路面の接地感をちゃんと伝えてくれるのだ。それにやろうと思えばアクセルターンやパワースライド、ABSをキャンセルしてブレーキターンだって思いのまま。

パワフルだがコントロールしやすいエンジンは、歩くようなペースでダートを走ることも簡単。林道をゆったり景色でも楽しみながら走ることも難しくない。もちろん、ペースを上げていってもハンドリングやブレーキングに突発的な部分がなく、オフロードをしっかり知っているパッケージであることがよく分かる。
クローズドエリアなのを良いことにアクセルをさらに開けると、990 ADVENTUREが本当にスポーツバイクであることが分かる。

このようなシーンで、このバイクを誰もが使うとは思えない。だが裾野は広くピークが高い、という独立峰のごとき仕上がりに、頂上を極めなくとも様々な楽しみ方が出来る、ということを改めて理解できた。

また、POWERPARTSに用意されたラゲッジキャリアシステムや、タンクガードを備えたテスト車は、ロングツーリングを楽しむ用意が出来ている。さらに、人気の高いバイク用ナビであるガーミン製のトムトムライダー、550や660シリーズに向けたマウントキットも用意されている。より快適なハイスクリーン、快適性アップのシートなど、いろいろなオプションリストもあり、長い時間をかけて付き合えそうな一台だ。
ハードなツーリングスーツやカジュアルスタイルも楽しめるPOWERWEARの中から様々なシーンを想定したウエアをチョイスすれば、ショートツーリングから大陸横断までこのバイクは楽しめる。

と書いている僕も、乗る度に“もしコレを買ったら”病が再発し、なかなか微熱が収まらない。そんな個人的思いは別としても多くの人に勧めたいKTMの一台であることは間違いない。