2012 New Model Impression 350EXC-F
ベストヒットKTMの予感。異次元の楽しさを実感。By 松井 勉

昨年、モトクロス世界選手権で旋風を起こした350SX-Fの大活躍を思い出すまでもなく、350エンジンがエンデューロモデルに搭載されたら、いったいKTMはどんな味付けで出してくるのだろう。

ぬかるんだ難所をトルクでやすやすと抜け、ヒルクライムにあるギャップでスロットルを閉じても、そこから楽々とトラクションを生みだしスムーズに登れるのではないだろうか。フロントアップをしたいとき、少しのきっかけと右手一つでホイっと浮いてくれるのではないだろうか。
250EXC-Fとの比較になるけれどもライダーの動きをエンジンのキャパシティーがフォローしながら、疲れずに楽しめるのでは……。

確かに450EXCだとこれら全部がかなう。が、ちょっとした場面で「開け過ぎた」「滑らせすぎた」という経験をすると、ビビッてしまう自分がいて大人しくなってしまった走りに「乗れてないなぁ」という負のスパイラルにハマることも珍しくない。パワーとは諸刃の剣。この350はいったいどんな「パワー」なのだろう……。

そして実走で得た印象とは!

期待と不安──その両方をもって350EXC-Fに跨がりエンジンをスタートさせる。アイドリングから少しアクセルを開け、回転が上昇する初期に排気量の大きさを感じさせるバイブレーションがあるが(いやパルス感か)、回転が上がってからの軽快なレスポンスは250に近い。小気味よさがあるのだ。

軽いクラッチを繋ぎ動き出す。その瞬間の太さがやっぱり250とは違う。250と比較すると上り斜面を発進したような身軽さがある。
4速までシフトアップし、加速しながら斜面を登る。トルクに余裕がある分、250よりも回転を低く落としても右手の期待通りのトラクション感を得ることも簡単。印象的なのはそのときエンジンがスムーズさも失わず、トルクを紡ぎ出すフィーリングだ。

350EXC-F SIXDAYSというオフロードモデルに、すなわちエンデューロモデルとして世界トップクラスのマシンに乗っているんだ、という高揚感はあるものの、攻め立てられるような緊張感がない。
2012年モデルのKTMはこの部分をとっても良く磨き込んでいるが、走り出して1㎞未満でライダーとバイクに信頼関係が生まれた。KTMらしいサポート感が潤沢なのだ。

スリッピーなコーナーをいくつか通過し、ライン以外にコブシ大の石が転がるイヤらしい左コーナーに向かう。その手前で向きを変えておくのだが、そのときの動きの軽さは250と同等かそれ以下だ。やはり細かくアクセルを開けた時の駆動力、アクセルオフで生じる減速力などが低い回転でも得られるため、全体にバイクの動きが軽い。回転を低く抑えて走っているせいで「攻めてない」「飛ばしてない」という感覚に包まれているのも大きい。
最初はコースと体の馴れかな、とも思った。しかし、250と同じルートを同じようなペースで攻めてみても、やっぱり350のほうがイージーに感じるのは、このエンジンの恩恵に他ならない。

旋回性に関しては250同様。フロントのしっかりした接地感があるので、スタンディングをしてステップワークできっかけを作っても、シッティングしつつ外膝でバイクを寝かしていってもしっかり前輪に舵角が入る。こうした部分は新しいフレームの入力伝達時の応答性に“角がない”という表現のほうが妥当だろう。

とにかくスムーズに違和感なくフロントタイヤは路面とコンタクトしている。その時の前後のグリップバランスも絶妙で、アクセルを開ければ気持ち良くテールアウトの状態へと移行する。250以上にスムーズかつマイルドな操作感なのに、この流れが実に簡単にできるのだ。

例えば下りカーブのバンクを使いながら加速するような場面でも本当にリラックスして走ることができる。同様にブレーキングしながら一気にバイクを寝かしこみ、バンクにあてながら加速旋回しつつ脱出するような場面でも、自分の意志とバイクという機械がシンクロし、一つの生命体にでもなったような一体感を楽しめる。
そんなときの高回転までの駆け上がるエンジンパワーの印象はこうだ。トルクピークを越えてから、回転上昇に伴うパワーピークまで到達する印象はどこにも突発さがなく、250EXC-Fの特性とよく似たフラットで伸びが良く、右手の操作に神経質な部分が微塵もない。

トラクション感が途切れない加速は絶妙なもの。テール周りを抑えていないと暴れてしまう、タイヤのブロックばかりが飛んでしまう、という無駄な方向に拡散するパワーは皆無だった。

今度はボトムエンドを使うようなシーンへと向かう。
1速でガレ場にも足を踏み入れてみた。S字を書くようなガレ場の中でフロントフォークはしっかり岩を摑みながら旋回する。このときのいなしと剛性感は感動的。妙なキックバックもないし、少々無理をしたラインをトレースしても、フォークがスティックしてあおられる事がない。
リアも同様。綺麗に吸収して乗り越える。接続するエリアが適度に広く操作しやすいクラッチの恩恵もあって、速度調整も簡単。低速でクリアしたい所をその通りに通過できた。

全体にスムーズでソフト、そしてイージー。350EXC-F SIXDAYSの印象はこの3つにつきる。

おそらく乗れば多くの人が同様な印象だろう。作り込まれたハードは、トップエンドばかりではなく、裾野の広さがむしろ印象に残る。このバイクが生まれた背景、2012年に数年先までを見渡してKTMが練り込んだオフロードスポーツの哲学をすんなり理解できるバイクだった。

新時代、次世代その両方をしっかり体感できる仕上がりに大満足だった。