オフロード初心者が、エンデューロ・レースに出てみたら……。
──オレンジ隊員1号のJNCC初参戦記 前編──

一番下のFUNクラスに挑戦。初めてのレースがいよいよスタート。

一番下のFUNクラスに挑戦。初めてのエンデューロ。レースがいよいよスタート。

7月24日に開催されたJNCC、全日本クロスカントリー選手権の広島大会。最高峰のAAクラスでは見事KTM埼玉レーシングのディフェンディングチャンピオン、小池田猛選手が優勝を飾りましたが、ど素人が本当にこんなレースに参加できるのか? とKTMのスタッフも一番下のFUNクラスに参加してみました。
今回は、そんなオフ初心者のインサイド・レポートです。

ロードレースでは(20年も昔の話ですが)全日本クラスのレースで走ったこともあり、ポイントを稼いでランクをあげていくという戦いも経験したことのある僕ですが、オフロードは全くの初心者。趣味でトレールバイクはずーっと持っていましたので、林道をちょろっと走るくらいはしたことがありますが、せいぜいその程度。でも、オフの魅力には取り憑かれてきました。なんといってもストリートと違うのは、たとえ同じ河原を走っていても毎日石ころの位置ひとつとっても違うということ。
アスファルトのワインディングロードは毎日変わりはありませんからね。オフロードコースを走っていると、毎周石の位置、わだちの掘れ具合、その他コースがさまざまに変化していきます。だから、いつでも新鮮。どんなに走っても飽きることがありません。僕にとって、オフを走るということはそんな魅力があることでした。

そんなヘロヘロ林道ライダーでも、たまにはコースを走ることもありました。といっても、東京から程近いコースばかりですから、眼前にそびえるような山なんてもちろん皆無。ガレ場もありません。林道を走っていたころだって、いわゆるゲロ系だとかアタック系だなんてのはいつも避けてきたチョロイ僕ですから、JNCCに参戦するってだけでももうドキドキ。もちろんタフなコースは走ったことなど全くありませんから、写真などから想像するだけですが、丸太なんか出てきたらもう全く通過できねーぜ、ってのが本音でした。

けれども、KTMで働いていれば、もともとオフに魅力を感じて走ってきた僕が、KTMの本質ともいえるオフロードレースに迫ってみたいと考えるのも自然の成り行き。さらに、僕のような素人が、でもKTMのスタッフでもある僕がお客様と共にお客様が楽しんでいる場で走るというのも大事だと思うのです。それでこそ、どうやったらさらにお客様に楽しんでいただけるのか、どうやったらお客様がもっともっとKTMの魅力にはまっていくのかが、自分の体験として判っていくと思うのです。

初心者でもエントリーできるエンデューロがあるのはうれしい。参加者も増えているという。

初心者でもエントリーできるエンデューロがあるのはうれしい。参加者も増えているという。

というわけで、2012年モデルがデビューした直後のJNCC広島大会に参加することにしました。車両は、デビューしたばかりの2012年式KTM 250EXC-F。今年、フルモデルチェンジしたばかりのモデルを土曜日には試乗車としてお客様に楽しんでいただき、そのまま借用して日曜日には走ってしまおうという計画です。転倒したら修理代は自分持ち、でも転ぶに決まっているよなぁ……と思いながら、ぎりぎりで申し込みして得たゼッケンを貼付。タイヤも新品に付け替えました。ロードレースは散々やってきましたから、レースに臨む緊張感というのは無いのですが、何しろ右も左も判らない僕のためにいろんな人が助けてくださいます。感謝……の気持ちが、何とか結果を出さなきゃ、というキモチに変わってきます。結果といっても順位は望めませんから、無事に笑って帰ってくること、ですね。

たかだか100分、ピットになんか戻るんじゃねーぞ、途中でリタイヤなんかするなよーという暖かい仲間からの声援に支えられて、スタートラインにバイクを進めます。一番後ろですから、前の車両が次々にスタートしていくのが見えています。FUNクラス119台が次々と走り出し、炎天下の中乾ききった路面からもうもうと土埃が立ってまったく前が見えない中で、スタートフラッグが振られました。心地よい緊張感……というよりもわくわく感の中、ゆっくりとスタートを切ります。頑張っても僕のスピードじゃ抜かれるのが落ちですからね、引き倒されないようにアウトから入り、それでも運よく何台かは抜いて1コーナーをクリアして前に進みます。

スタート周辺の広い土と草むらを抜けると、いきなり硬い路面が深くわだちでえぐれた斜面の上りです。土曜日の下見ツアーで、「自信が無い人はまっすぐに入ってちゃんと加速してあげれば登れますよー」と教えていただいていたので、その通りのラインを選びます。どうも自信が無い人ってのは僕しかいないようで、そのラインは見事に空いています。ラッキー! 上りの中腹には早くも転倒してもがいている人がいますが、構ってなんかいられません。こんな上り坂なんて走ったこと無いぜぇ……と思いつつ、息を吸い込んでアクセル全開。

250EXC-Fは、乗り手のそんなダメさ加減には全く影響されず、それどころか乗り手を大いにカバーして、あっという間にこの坂を登りきりました。すごい!こいつがいればどこでもいけちゃうじゃないか! そんな気にイキナリなって気分が乗り始めます。坂を登ると今度は木々の間を抜けるセクション。上りがあれば下りもあるわけで、背の高いオフロードバイクの上から下を見るとどきどきしながらエ〜、無理! と思うような急な下りが出てきますが、これも何とか惰性で降ります。そうです、惰性です。僕みたいな素人は下りは降りるというよりは落ちていくだけです。でも、何とか降りきって、つぎはウオッシュボード……って地図には書いてあったけど、そんな生易しいもんじゃなくてやたらに谷間が深いセクション。草が深いので滑ります。わだちで深くえぐれている水が流れている溝を乗り越えて、少しアクセルを開けられる広い草原地帯に出たと思うとまた急な下り。ここも、下見の時には「頑張って加速すると次のジャンプで吹っ飛びますから気をつけて〜」なんて言われましたが、もちろん落ちていくだけなんで加速どころではなく、したがって次のジャンプも飛びません。安全、安全……。

一見長閑な丘陵地帯……、だけど……。

一見長閑な丘陵地帯……、だけど……。

その先にまたまたそそり立つ壁。今度は最初の壁より急な上に、上がりきったところのスペースがバイクの長さくらいしかないから上がれても落ち着いていられないどころかそのまま車の向きを変えなきゃなりません。上りのサイドの部分が急なので勢いがないとそこで上がれなくなりそうですし、失敗すると痛そうです。おまけに、壁の幅自体はそれなりに広いのですが、あちこちで上がれない人が壁の途中に引っかかっていて大渋滞。ああ、これがスタート前に聞いていた渋滞なんだ……と実感します。

渋滞はどうしたらいいのか判らないのでしばらく眺めていましたが、いつまでたっても進みません。こりゃイカンな、と、田中太一選手のエルズベルク参戦記を思い出しながら、止まっている人を掻き分けて進む方法を必死に考えます。よーくみれば、やっぱり下見のときに教わった楽そうなラインが何とか空いてそうだ。よし! と、割り込んでそのラインに向けてアクセルをひねります。生まれて初めて登るこんな急坂というか壁! ですが、250EXC-Fがまたもさくっと登りきりました。すげーぞコイツ! この壁で一気に30人くらい抜いたような気がします(ちょっと大げさ)。その先の全く走りなれない大きな石ころがざくざくしている右ヘアピンを抜けて、こんどは丸太が並んでいるセクションです。

丸太なんてもちろん越えたことはありませんから、どうやったらいいのか見当もつきません。これも前日の下見のときの声を頼りに、一番低そうなところを狙ってまっすぐに入り、ちょっと後ろにカラダをずらして気持ちフロントを持ち上げます。上手くいった! ちゃんと固定されていないからなんとなく動く3本の丸太を転ばずに何とか乗り越え、林を抜けると、オレンジのシャツを着た人の声援が聞こえます。まだ僕は生きているぜ! とそのまま坂を駆け上がると、計測ゲート。すぐ先のピットには、JNCCでレーシングサービスを展開しているKTM埼玉レーシングの皆さんが大声で手を振ってくれます。すごい力に勇気付けられて、でも手を振り返す余裕は無くて、そのままピットを抜けてイキナリ転倒。Uターンするところの入り口がよく判らなくて迷ったときに押さえられませんでした。あーあ、やっちゃった……と思いながらすぐに起こして(まだ元気)、ピットロードから抜け、ちょっと加速して林に飛び込む下りに入ります。ここもまっすぐ飛び込むとえらいことになりそうなので、隅っこから慎重に下り、どんどん谷底に落ちていくような林間セクションが続きます。日陰なので、湧き水などでぬかるんでいるところが多く、またわだちが非常に深い。どうやって走ったらいいのか、またまた判りません。

けれども、僕が乗っているのはKTM 250EXC-Fです。KTMは、あらゆるオフロード、エンデューロバイクの中で、両ステップとタイヤとを結んだアングルが最も狭いつくりになっています。すなわち、どんな深いわだちでも、どんなバイクよりも確実に走りきれる能力があるのがKTMなのです。だから、他の誰がスタックしていても、バイクを信じてわだちの中を進んでいけば必ず抜けられる。この言葉にうそは本当にありませんでした。数人がわだちでスタックする中、空いていた一番深そうな、つまりみんなが避けていたわだちにあえて飛び込んで進みましたが、ちゃんと進んでいきます。すごいぜ250EXC-F!! こいつならいけない道は無いんじゃないだろうか。そう思わせてくれるスーパーバイクです。

今度は左にカーブしている下り。ここもわだちだらけの上急な壁なので、どうしたらいいか判りません。が、奥のほうからこっちのわだち! という声がかかったので素直にそちらにバイクを進め、慎重に下ります。どんなときでも左足だけでもいいからステップから離さずに、ブレーキレバーを踏めるようにしておきなさいと下見ツアーでトップライダーから教わった言葉を忘れずに、そろそろと下りました。降りきったらすぐにまた直角ぅ? みたいな上り。最短ルートの上には引っ張り上げるつもりかギャラリーが集中してライダーに声をかけています。が、立ち止まってしまっているライダーもいます。僕は例によって遠回りですがいけそうなルートを探して一気に登り、ここもクリア。へたくそはへたくそなりに交わしていかないと走りきれませんからね。ここでピットエリアとお別れ、またまた林間へとバイクを進めます。

声援が後押ししてくれる……。あ、KTM JAPAN社長のシャノーです。JNCCのレースやKTMの各種イベントにはほとんど顔を出していますから、見かけたら声をかけてください。

声援が後押ししてくれる……。あ、KTM JAPAN社長のシャノーです。JNCCのレースやKTMの各種イベントにはほとんど顔を出していますから、見かけたら声をかけてください。

テージャス山の裏側は、トップライダーには何てこと無いんでしょうが、僕にはドキドキが連続の上り下りの繰り返し。コース幅も広くは無いですし、わだちも相変わらず深いです。でも、楽なルートを探すことに慣れてきましたので、へたくそなりにちょっとずつですが進んでいきます。所々出てくる壁みたいな上りも何とかクリアし、下見のときに一番警戒していたエグイ上りも登りきってほっと一息。しかし、ここで下見していないコースへと入っていきます。

下見のときに、ガイド役のライダーさんが途中で道が判らなくなって、「まあそんなにひどいところはファンクラスは通らないですから……」と言われたところが、実は結構な上りでした。上が見えないのでどれだけ登るのかの距離感がつかめないまま挑戦して、こりゃアクセル緩めたらおしまいだなぁ……と思いながら必死に上を目指します。「途中で坂を見るのではなく坂の出口をひたすら見ていけば必ず登れますよ」と言うトップライダーの声を信じて、ようやく登りきったところがスタートラインのはるか後方、テージャス山の山肌でした。こんなところ聞いてねーよ、と思いながらまた急な坂を転げ落ち、草原の間を抜けるセクションを通ると、またまた上り。だいぶ疲れてきましたがここもイキオイで何とか登りきって、続く急な下りを泣きながら落ち、ピット裏から見えるいくつかのジャンプがあるセクションをふらふらと走りきって、草むらを下ります。ここも何とか降りきると今度は右を下にした斜面のキャンバーを斜めに横切り、大きく登って下ってようやくスタートラインに到達しました。これで一周。初めてのJNCCの一周目は、30分近くかかりました。約12kmのコースですから遅いことこのうえ無しだと思われるでしょうが、僕にとってはものすごいアドヴェンチャー。でも、苦しいけど楽しい!

※1周目を走り終えて……、オレンジ隊員1号のレースはどうなるでしょう? 後編に続く。