“エルズベルグロデオ レッドブルヘアスクランブル”を
田中太一が振り返る。第3回
「ほんま、サバイバルですよ」

フィニッシャーに与えられるフラッグ。来年のエルズベルグにも是非トライして頂きたい。

フィニッシャーに与えられるフラッグ。来年のエルズベルグにも是非トライして頂きたい。

オレンジブログ(以下オレブロ):(前回より続く)いざスタートを迎える訳です。実際、どれほどタフだったんでしょうか。
田中太一:一列目がスタートしてから待たされました。いつまで待たせるんだ、と思うほどです。20分ですよ。予選で失敗するというのはこういうことか、と 思いました。でも行くしかない。すでに先行したグループがあちこちでスタックの山を築いているんです。ヒルクライムでもみんな順番を並んで待っている。僕 としてはレースですから、列の順番待ちなんて関係なしにガンガン前に行く。予選順がゼッケン番号になるので、待っている人は僕のゼッケンを見て、なんでそ んな後ろの番号のヤツが来てるんだと、怪訝な顔をする。待ってなんていられません。
オレブロ:長いヒルクライム、難所、ものすごい場所もありますよね。
田中太一:難所でも行列が出来ていました。誰かがトライするのを見てラインを見るためもあるんだと思います。そんな中、僕が前に出て行くと暗黙のルールを 破るヤツ、という感じで「下がってろ!」ぐらいのことを言われる。言葉には出さなくても喉元をかっ切るように親指を動かすライダーもいました。スタートか らフィニッシュまで20のチェックポイントがありますが、今年はチェックポイントいくつまで行けるか、というトライで毎年参加しているライダーも多いんで す。だから彼らも真剣。でも僕もアドレナリン出てますから、「なにを待っているんだ、こっちのラインからだって行けるじゃないか」と。それにトライして、 行けたら、ほーら、行けたじゃないかと振り返る。ちょっと行けるかな、という難しいラインで行くんです。もう、行けなかったらどうしようです(笑)。で も、それで僕が登れるとそれが新しいラインになったりする。
オレブロ:プロローグで自分よりも下位でも、まさかそのライダーがトライアルの世界選手権を戦ったライダーだとは解らない。
田中太一:僕もマジで余裕ないっすよ。イチかバチかです。それで登れなかったら反感買うだけですから。そうなると例えば自分がスタックしている時にそうした連中から助けてもらえない(笑)。エルズベルグロデオではそんな助け合いをすることも戦略的作戦になりますから。
オレブロ:となると、どんな戦略でいったんですか?
田中太一:どう考えても自分の力ではいけない場所もあるんです。そんな場所ではオフィシャルや観客がバイクを引き上げてくれたりします。もちろん、登り切 る直前まで行かないと駄目なんですが、その最後の2メートルが登れないような場所ですね。助走をする前にヒルクライムの上にいる連中にアピールするんです 「I’m Japanese!!!」って。盛り上げて観客を味方に付けてしまう。そこで良いパフォーマンスを見せれば沸くじゃないですか。途中、気温も高いし難所続 きで水分も必要です。でもライダーとしては重たい物は背負いたくない。もう助けは借りようと(笑)。観客が差し出してくれる飲み物の中から冷たいものを選 んで飲み体温を下げます。あまり冷たくないものはキャメルバッグに補充していきました。予備なんか持っていたらバテますから。
オレブロ:体力面でも精神面でもサバイバル!
田中太一:コースは本当に凄い場所が多かったです。写真には出てこないような場所も相当にきついです。ダウンヒルの中にはバイクに乗って下れないな、とい うような場所もあります。しかも降りきった所を直角に右に曲がる。で、止まり切れなければそのまま崖から落ちる、というような場所です。どうしよ、って 思っていても仕方ない。バイクを寝かして一緒に滑り降りました。他のライダーもそうしているんです。バイク同士が近づきすぎると相手のバイクを蹴って離し たり。レースなんですよね。それで相手のバイクがどうなろうと知ったことか、みたいな(笑)。
観客もある意味目が肥えていて、僕がトライアルブーツを履いているのを見ると「おい、トライアルライダーならこっちのラインも使えるぞ」ってとびっきり難しいラインを教えてくれる。それで時間を無駄にせずに済んだ部分もありましたから。
オレブロ:他のライダーと神経戦を繰り広げ、観客を巻き込み、そしてテクニック以外に、トンチのようなフレキシブルな発想が必要だったと。
田中太一:ほんま、サバイバルです。それでもチェックポイントの最後の18、19、20までの三つの区間ではトップタイムを出すこと出来たのは自信になりました。
オレブロ:それは凄い。本当に凄い。エルズベルグロデオの現場を見たことがありますが、我らが日本人ライダーがやってくれたな! と。
田中太一:テクニック+発想力が問われるレースだと思いました。
笑い話ですけど、僕のゼッケンは200番台。5列目スタートです。そのライダーが時間内に13番手でフィニッシュライン近くまで戻ってきた。最後にタイ ヤを超えたりする人口セクションがあるのですが、それを超えたらオフィシャルが僕を手招きして止めるんです。きっと諦めてパドックに戻る途中のライダーが 間違えてオンコースに入り、フィニッシュラインに来てしまったと思われたようで。フロントゼッケンの裏側にチェックポイントでタイムを取るICタグのよう なものが入っているんですが、それを読み取る機械でそのオフィシャルがチェックをすると「パーフェクト! このジャパニーズはパーフェクトだ!」ってゴー ルラインでチェッカーフラッグを持っている別のオフィシャルに言って、遂にゴールとなったんです。
オレブロ:タラレバの話をしても仕方ないですが、もしプロローグでミスコースがなかったら……、凄い成績を出していたかもしれませんね。
田中太一:先のことは解りませんが、もし来年もう一度チャレンジできたら5位か6位には入りたい。太一もう一度行け、というファンの期待があればそれに応えたいですし。
オレブロ:お時間有り難うございました!
JNCCにKTM250EXC-Fで参戦している田中太一さん。世界を相手に戦ったトライアルライダーであり、オフロードライダーでありラッパーであり イベントプロモーターでもあります。今、バイク界を盛り上げるために色々な活動をしています。観客との距離がとっても近いトライアルバイクを使ったビッグ イベントの開催も予定されていて、目が離せない人です。
これからも沸かせて下さいよ! 太一選手。
写真の天地を間違えてるワケではありません。こんな場所を下るのです……。人間業じゃない。

写真の天地を間違えてるワケではありません。こんな場所を下るのです……。人間業じゃない。

崖を登る。トライアルの世界です。もちろんエンデューロの要素も満載。それがエルズベルグロデオです。

崖を登る。トライアルの世界です。もちろんエンデューロの要素も満載。それがエルズベルグロデオです。