NEW MODEL IMPRESSION 990 ADVENTURE R とのワン・ウイーク。
By 松井 勉 第2回
皮膚感覚レベルにまで高まっているバイクと人の織りなす走りの一体感。

実は西日を受けて自分の影を視界の中に入れつつ走る時、このバイクはこの瞬間のためにデザインされたんじゃないだろうかと思うほどカッコイイ(と思う)。

実は西日を受けて自分の影を視界の中に入れつつ走る時、このバイクはこの瞬間のためにデザインされたんじゃないだろうかと思うほどカッコイイ(と思う)。

まず990 ADVENTURE Rを目の前にして思うのは、990 ADVENTUREのゴージャス風味を交えた精悍さ、とうよものより、ワークアウトしたアスリートという印象。その「敵わないかな」と思わせる源泉がその シートの高さでした。跨らずにサイドスタンドを払うと、身長183㎝のワタシでもちょっと驚きます。スペックを見ても915mmと、990 ADVENTUREの860mmからサスペンションストロークが長くなった分上がっています。しかし跨るとシート形状もあってか、足はまっすぐ下に下ろせ るため「そっくりそのまま55mm上がった!」という視覚的インパクトよりはしっかり足が届きました。
借り出したその夜、173㎝、体重67kgという知人に跨ってもらったところ(ワタシは空荷で83キロあります)「これなら乗れます」という答え。普段 R1200GSに乗る彼にとって「足つきは慣れもありますね」とのことで、厳しい意見が飛び出すに違いない心配したものの、意外にも太鼓判をもらうカタチ に。

この足つき性に関して、身長というファクターもあるものの、体格にもよって、足つき性の個人差が大きく作用するもの。過去の多種多様な取材で経験 した中には、片足のつま先しか付かないライダーが「これなら乗れる」と嬉しそうに話した同じバイクを、両足つま先が付くライダーが「恐い」と評するのを目 の当たりにするなど、物理的に足が付く、付かないよりもまずは自身で体験してどうなのか、というのが結論ではないだろうか。これは一度KTMディーラーで 是非ご自身でお確かめ頂きたい。私の知人のようにオーナーになったら足つき性は気にならなくなった、というケースは多いようですし。

ついつい足つき性にスペースを割いたが、このシート高というか、全体のプロポーションが990 ADVENTURE Rのスポーティーなハンドリングを作り出す源泉にもなっているのです。シート、ステップ、ハンドルグリップが作り出すそれは、コントロール性重視で、バイ クの反応も990 ADVENTUREよりもシャープに感じます。舗装路では21インチの大径ホイールを前輪に履き、265mmというエンデューロマシンばりのサスペンショ ンストロークを持つバイクとは到底思えない一体感を、市街地での低速域から郊外での一般的な流れ、峠道でのタイトターンや複合カーブ、もちろん、高速道路 のレーンチェンジや直進安定性に至るまでピタリと感覚に沿っている。
このクラスのオンオフツアラーの価値は舗装路での楽しさで決まる、と考える僕にとって990 ADVENTURE Rの走りには高得点を与えたい。

こうした気持ちよさに990 ADVENTURE Rの軽快なエンジン特性が後押しをする。990 ADVENTUREの軽く回るように仕上げたような性格は、正直、トップエンドの+9psという数値以上に日常域から効いている。KTMらしい回り方、と いう表現があるとすれば正にそれで、軽快でいて扱いにくさがない。アクセルを大きく開ければド迫力の加速をするが、高速道路での100km/hの一定のク ルージングも楽にこなす。昨年、オーストリア国内をツーリングしたとき、130km/h制限の彼の地の高速道路を何処までも走れそうな気分になれたのも巡 航性能を加味したエンジン特性であることがうかがえる。疲れさせず退屈させない。これは長旅のパートナーとしては大切な部分。

長いサスと舗装の相関関係は?

緩いカーブからタイトコーナーまで990 ADVENTURE Rはむしろアスファルトを得意とする。そう、世界一周だって日本一周だって町内一周だって、冒険する先まで快適なペイプドロードが連れて行ってくれるのだから。

緩いカーブからタイトコーナーまで990 ADVENTURE Rはむしろアスファルトを得意とする。そう、世界一周だって日本一周だって町内一周だって、冒険する先まで快適なペイプドロードが連れて行ってくれるのだから。

265mmあるサスペンションストロークは、初期からしっかりとダンピングを発揮しフワフワすることがない。高速道路の継ぎ目やアスファルトの細かい ギャップを越えた時、全くと言ってよいほど角のある衝撃がなく乗り心地がとても良い。ワインディングを楽しんでも、ブレーキングや加速時の荷重移動による ピッチングモーションがしっかりと出るにもかかわらず、乗り手には動きとしてはその大きさがあまり感じられず、フィーリングはとても自然。
この感覚、どこかで体験したよな、と自分の記憶をたどると、ありました。2007年、登場間もないKTM250EXC-Fで林道からオフロードコースに 入り込み、深いギャップのある上りをフロントアップのまま走り込んだときの挙動にそっくりです。跨った時は硬いのかな、と思わせて、実はしっとりと動く。 ダートの路面という実はものすごい細かくストロークしないとタイヤの接地面が容易に路面から離れてしまう。そこでグリップを得るにはしっかりと地に足を着 けておく必要がある。正にそれと同じフィーリングなのです。
今回、ダートを走る機会はありませんでしたが、以前990 ADVENTURE Rでダートを走ったとき、ダンピングが掛かっているのにグリップがよい、と言う体験もしているので、WPのエンジニアとKTMのテストライダーが生み出し た設定は正に絶妙と言えるのでしょう。この車体にレスポンスの良いエンジンが加わり、スポーツバイクに乗っている充実感がスゴイ。プレミアムな気分とは正 にこのこと、と思わず鼻歌がでる場面なのです。

ところで990 ADVENTUREには標準装備されるABSがこの990 ADVENTURE Rでは省かれている。それだけにブレーキングにはシビアなのかなぁと思ったが、リアブレーキも懐の深いコントロール性を持ち、前後ともあえてガツンと掛け ない限りロックしにくい性格だった。かつてこのバイクでダートを走った経験もあるが、そんな場面でもコントロール性がシビアだ、と感じたことは無かった。 ここでも優秀なサスペンションがもたらす適度な姿勢変化が、タイヤのグリップ力を有効に引き出すためだろう。ブレーキ操作に比例した制動感を発揮してくれ る印象なので安心感が高い。

走る、曲がる、停まるという運動性がどれも高いレベルで乗るのが楽しい。外観はアグレッシブでも、乗り手を優しく受け止めてくれるあたりの造り込 みがKTMらしい。それでいて乗り手が望めば、ワイルドな領域までスッと連れて行ってくれるポテンシャルの高さ。思わず頬がゆるむ、とはこのことです。
街へと出れば存在感はピカイチ。ワイルドさをさりげなく発散するスタイルは他にないし、高速道路も快適。ワインディングも楽しいときている。パニアケー スなどを装備すれば、ラゲッジキャリアとしての実力も高まる。実にKTMらしいバイク。それが僕の結論です。かつてダカールラリーに参加して走りと耐久性 を磨くという出自を持つオフロードスポーツツアラーだけに、KTMのDNAをそこに見ない訳にはいかないのだ。で、その一番のキモは、そんなルーツに心満 たされながら、実は舗装路で山ほどの恩恵を受けている、ということ。オフロードでもスゴイけど、その性能を何時でも使える、と所有者に与えられた密かな余 裕は、ますます心を潤してくれるのです。